人生の意義は「何をなすか」ではなく、「何をなそうと胸を焦がすか」である。 相川章子人生の意義は「何をなすか」ではなく、「何をなそうと胸を焦がすか」である。 相川章子

Ayako Aikawa

相川 章子教授

プロフィール

聖学院大学心理福祉学部心理福祉学科教授。博士(人間学)。精神保健福祉士。国立精神・神経センター精神保健研究所研究生、またたびの家(新潟・魚沼市)、めぐハウス(世田谷区)等地域における障碍者支援の現場のほか、医療機関、保健所、専門学校等でソーシャルワーカーとして実践を積む。2013年4月より現職。ピアスタッフと働いた経験からピアスタッフ、ピアサポートを主な研究テーマとし、現在は各地のピアサポートに関する講座や研修等にかかわる。関心のあるテーマはピアサポート、ソーシャルワーク、スーパービジョン、精神保健福祉教育。

  • 専門分野

    社会福祉、精神保健福祉、ソーシャルワーク、ピアサポート

  • 研究テーマ

    • (1)ピアサポート(同様の経験を体験した対等な仲間同士の支え合い)に関する研究①ピアサポートの理論構築研究
      ②ピアサポートの効果測定研究(質的・量的)
    • (2)ピアスタッフ(ピアサポーター等)に関する研究①ピアスタッフの構造研究
      ②ピアスタッフの効果測定研究(質的・量的)
    • (3)リカバリー、コミュニティ・インクルージョンとピアサポートに関する研究
  • 講演可能なテーマ・ジャンル

    • ピアサポートが紡ぐ新たな関係性〜境界の地と中動態の世界〜
    • 「する-される」を超えた関係性〜社会的包摂とピアサポート〜
    • リカバリーとピアサポート
    • ナラティブとピアサポート〜経験の対話を紡ぐ〜
    • ピアスタッフの現状と課題、必要性と可能性

取り組んでいる研究について
詳しく教えてください。

社会福祉は誰もが幸せに、自分らしく生きていくことを目指す学問であり、「ゆりかごから墓場まで」の言葉通り全ての人を対象とするものです。しかし、実際の制度では、自分らしく生きられなくなっている人、困っている人の中でも、対象となる方が細かく定められ、限られているのが実情です。

私は特に、高齢者や他障碍の方に比べて法整備が遅れている精神障碍のある方々への支援を主な研究領域としています。研究テーマであるピアサポートは「仲間同士の支え合い」を意味し、たとえばアルコール依存症やうつ病などの当事者同士でその体験を語り合うことで、精神的な回復を目指す取り組みです。欧米諸国では20年ほど前から制度化され実践が広がっており、互いに支え合うピアサポートの感覚を支援の現場に持ち込むことで、これまでの「支援する側−される側」とは異なる新たな関係性が生まれ、当事者本人が主体的に精神疾患を乗り越えるきっかけにつながることがわかってきています。

同じ立場の人同士で対話を重ねていくピアサポートは、福祉の現場に限られたものではなく、人生の中で何度も迷い、揺れ動く私たち全てが、当事者であり、経験者であると考えることができる概念で、私たち自身が生きやすくなることにつながります。日本ではここ10年ほどで注目されるようになってきましたが、「友人と愚痴を言い合って、気持ちが楽になった」など、実は無意識のうちに多くの人が日常生活の中でピアサポートを経験しています。

身近であるが故に重要視されにくい、ピアサポートの効果や可能性を可視化し、広めていくことで、多くの人が自分らしく生きられる社会づくりにつなげていきたいですね。

最近の出来事で、ピアサポートと結びつけられるものはありますか?

2019年1月、国民的男性アイドルグループが2020年での活動休止を発表しました。あの会見の中で、彼らは長い時間をかけて互いに対話を繰り返したとありました。「明確な意志」と「無自覚な意志」が混ざり合う曖昧な心の状態から、全員で見えない未来を模索していったのだろうと想像します。

つまり、彼らが交わしたのはきっと「する」または「される」といった強い意志が伴うものではなく、リーダーが抱えるひとつの意志を巡りながら、誠実に自分たち自身に向き合う対話だったのだと思います。だからこそ彼らは全員で、ひとつの決断ができたのではないでしょうか。その結論についての「誰かひとりだけの意志を尊重したり、ぶつかり合ったということではなくて、五角形の真ん中に着地した」という言葉には、まさにピアサポートがなせる技と感じました。会見を見た私たちは、彼らに対して爽やかな応援する気持ちになりました。ピアサポートとは当事者以外の人をも幸せに巻き込む力を持つものだと考えています。

著 書

  • <社会福祉>実践と研究への新たな挑戦(共著)

    石川到覚(監)岩崎香・北本佳子(編著)共著者:相川章子、岩本操、他13名 新泉社 (2015年3月)
    担当頁:pp125-137

    「プロシューマーのポジション研究」と題して、プロシューマー研究をポジション理論およびポジション分析という手法によって説明し、考察を加えた。プロシューマーは「支援の受け手」であり「支援の送り手」である唯一のポジションであり、支援システムにおいて新たなポジションを生成しているとした。

  • 精神障がいピアサポーター
    ―活動の実際と効果的な養成・育成プログラム―

    相川章子 中央法規出版 (2013年9月)

    プロシューマーに関する研究を実践的に整理し、まとめた一冊。ピアサポーターという言葉に統一し、第1章ピアサポートとは、第2章ピアサポーターとは、第3章ピアサポーターの実際、第4章養成プログラム、第5章雇用、第6章これから、としてまとめた。

  • ソーシャルワーカーを支える人間福祉スーパービジョン(共著)

    柏木昭・中村磐男(編著)共著者:助川征雄・田村綾子・相川章子 聖学院大学出版会(2012年5月)
    担当頁:pp45-52,97-111,136-141,151-159

    ソーシャルワークにおけるスーパービジョンについての学術的な書のなかの、「第1章5)ソーシャルワークスーパービジョンの課題」「第3章スーパービジョンの内容」「第4章3)ピアレビュー/ピアスーパービジョン」「第5章ピアグループの効用」を担当。

  • 福祉の現場で役立つスーパービジョンの本
    〜さらなる飛躍のための理論と実践例〜(共著)

    助川征雄・相川章子・田村綾子 河出書房新社(2012年1月)
    担当頁:pp45-54,77-82,98-102,132-136,155-159,162-170

    福祉現場におけるスーパービジョンの理論と実践例をもとにこれからスーパービジョンをはじめようとするスーパーバイザー向けの入門書。第2章2「スーパービジョンの形態」、第3章「スーパービジョンの実践例」のうち4事例、第4章1「スーパービジョンが定着しない課題」を担当。

  • かかわりの途上で
    こころの伴走者、PSWが綴る19のショートストーリー(共著)

    相川章子・田村綾子・廣江仁 へるす出版新書 (2009年1月)

    ソーシャルワーカーとはどのような仕事なのかについて、クライエントとのかかわりをとおしてあらわした。19編のショートストーリーからなる。

論 文

  • ピアスタッフとともに働くこととスタッフの支援態度
    および職場環境の関連—クロスセクショナル調査

    水野雅之・種田綾乃・澤田宇多子・相川章子・濱田由紀・Naoko Yura Yasui・山口創生 精神医学60(7)773-781 (2018年7月)

    ピアスタッフと職場環境の関係性について、ピアスタッフを雇用することで他のスタッフは職務への達成感や自身の支援に効力感を感じるという効果を得た一方で、ピアスタッフを雇用することによって組織の意思決定に寄与している感覚が低下することや、情報が入りにくくなることなどが明らかになるという結果が得られた。

  • ピア文化とコミュニティ・インクルージョン

    精神科31(6)538-543 (2017年12月)

    ピアサポートの実践と効果について、地域における実践を事例として論じた。ピアサポートの意義として①伝統的支援からの脱却による新たな展開と可能性をもつことと、②コミュニティ・インクルージョンへの最大の架け橋となる二点を結論とした。

  • 若者の自立を支援するピアサポートのあり方テキスト

    特定非営利活動法人ピアサポートネットしぶや pp1-18 (2017年9月)

    以下、5章による構成で執筆した。第1章ピアサポートのはじまり、広がり、第2章日本の現状と先進地アメリカの事情、第3章若者支援におけるピアサポートとは、第4章コーディネーターの重要性とスーパービジョン、第5章コミュニティ・インクルージョンにおけるピアサポーターの役割

  • Becoming a Consumer-Provider of Mental Health Services: Dialogical identity development in prosumers in the United States of America and Japan

    Ayako Aikawa, Naoko Yura Yasui
    American Journal of Psychiatric Rehabilitation,20(2)175-191 (2017年4月)

    The aim of this study was to examine the process in which peer-delivered service providers, or prosumers, developed an identity as a prosumer in the United States and Japan. In conclusion, the authors discuss the vital connection of prosumer identity development with relationships with consumers and colleagues, and roles and needs of supervision and training for prosumers to promote their identity development through open discussion as well as active exploration of sense of worth and distress, and possible impact of prosumer identity development for inducing organizational and systemic changes in mental health service system.

  • 真のピアサポート文化を目指して(その1)〜(その3)

    特定非営利活動法人法人地域精神保健機構・コンボ こころの元気+
    (119)32-35,(120)32-35,(121)34-37 (2017年1,2,3月)

    半年間のアメリカ・フィラデルフィアにおける調査報告として連載を担当。主に(1)では認定ピアスペシャリストの現状と取り巻く状況を概観し、認定ピアスペシャリスト全米調査の結果やトレーニングがスーパービジョンの現状等について触れた。(2)ピア活動プログラムの実際について紹介とともに、経験の物語を聴く会や経験を語るためのトレーニングについて整理した。(3)ではフィラデルフィアでピアスペシャリストが取り組むアウトリーチプログラムとして移動式精神科リハビリテーションサービス(MPRS)を取り上げて、ピアスペシャリストと専門職の協働について整理した。最後に真のピアサポート文化とコミュニティ・インクルージョンについてまとめた。

  • ピアスタッフの現在と未来-日本の精神保健福祉の変革を目指して-

    精神医療(74)36-45 (2014年4月)

    日本におけるピアスタッフの現状について先行研究およびアンケート調査データ等をもとに概観するとともに、諸外国における現状について触れ、今後のピアスタッフのあり様、未来像について示した。

関連するSDGsのゴール

★学校法人聖学院はグローバル・コンパクトに署名・加入し、SDGsを目指した活動を行っています。