違和感を言語化する。濱田寛 教授違和感を言語化する。濱田寛 教授

Kan Hamada

濱田 寛教授

プロフィール

神奈川県立横浜緑ヶ丘高等学校卒業。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業、同大学院文学研究科修了、同大学院教育学研究科単位取得退学。博士(学術)。2007年4月、聖学院大学人文学部日本文化学科准教授を経て、2014年4月から現職。

  • 専門分野

    和漢比較文学、平安朝日本漢文学

  • 研究テーマ

    中国文芸理論の日本における享受/平安時代紀伝道の研究/入唐僧の在唐日記の研究

  • 講演可能なテーマ・ジャンル

    • 平安時代の学校制度と学問について
    • 故事成語の本意と我が国における享受について
    • 日本漢詩文の世界
    • 六朝新体詩詩病説とその展開
    • 空海と六朝詩文

取り組んでいる研究について詳しく教えてください。

日本漢文学を主な研究領域としており、特に平安時代、日本に将来された中国の古典に対して、それらを咀嚼し、吸収されていく過程を探究しています。彼らがどのようにして、膨大な蓄積のある圧倒的な中国の古典と向き合い、理解しようと格闘したのか、その実態の多くは実は解明されていないのです。

最近は六朝時代に編纂された『文選』の注釈を丹念に追いかけ、平安時代の「教養」の輪郭を明らかにする研究に取り組んでいます。同じ本文に対する多様な注釈を整理しつつ、その享受の在り方を当時の教育における展開や、取捨にかかる価値基準を探っています。注釈一つひとつの差異を見極めながら、当時の教養のありようを探し当てようとしているところです。

私が研究上大切にしているのは「同時代的考察」です。授業の中でも、1000年以上前に生きた我々の先祖と同じ「漢文」に向き合い、現在のような便利な辞書もパソコンも使わずに、未知の世界をどう理解していたのか、学生自身に体感してもらうようにしています。当時の日本人の感性に肉薄して、同じ目線から世界を眺めて初めて感じられるもの、そこに、わたしたちが追究している「人文学の知」があると思います。

人文学は自然科学のように新しい技術や進歩で世界を変える学問ではありませんが、人間を対象としているからこそ、その学びには生きていくためのヒントが無数に詰まっています。人文学が「虚学」と揶揄されることのある現代の日本は、あまりにもその価値をなおざりにしているように感じますね。

あらゆる事象が複雑化した現代社会は、多様な価値観を持たなければ生きづらい。これまでなかった価値観をつくり出すだけでなく、忘れ去られたものを取り戻すことも大切だと思います。かつてあった価値観を、再発明するのではなく、改めて捉え直すということです。その積み上げはきっと、これからの時代にも必要だと思います。

今、日本の中学校・高等学校で行われている「漢文教育」には、どのような問題点がありますか?

学校教育での漢文の扱いに対しては、自分自身が生徒だった頃から違和感を覚えていました。「受験のために学ぶもの」という動機づけで、教えられるのは句法や書き下し文の規則、返り点の打ち方等、「型」を覚えることにあまりに偏っていたように思います。

さらに問題なのが、大学における中国文学教育と、中学・高校での漢文教育にあまりにも落差があるということ。高校までは国語の授業で、「国語」の枠組みで学んできた漢文は、大学に進学すると、一方では「外国文学」としての「中国文学」として設置され、一方では伝統的な「漢文学」として設置されます。

「漢文」はこれまでの国語教育において、一貫して授業数減少の対象となってきました。その上、教科書から「文学教材」も失われているのが現状です。漢文教育はもはや風前の灯火と言えます。それも時代の要請なのかもしれません。しかし、中学・高校で古典を学ぶ目的は、大学入試にのみあるのではなく、多くの先人が指摘しているように、人生の様々な局面で発揮される根源的な「力」の涵養にあるのではないかと思います。

とはいえ、盲目的に「古典だから」価値がある、重要だ、とすべきではないと思います。古典が持っている、将来的に人生の中で活きる「力」をうまく伝える教育法があればいいのですが、それを現在の単元学習の仕組みに反映するのは非常に難しい課題となりましょう。教育は「どんな国民を育てていくか」という百年の計。高校を卒業するともう古典の世界に足を踏み入れることはほぼありません。今までの教育にも有意義な点はありますが、時代の要請に合わせることに急な対応ばかりではなく、その後の人生に息づくような学習として漢文教育を探求していきたいですね。

著 書

  • 世俗諺文全注釈

    濱田寛 新典社 (2015年10月)

    『世俗諺文』は源為憲が藤原道長の求めにより、息子頼通のために編纂した「故事成語辞典」と評すべき作品です。全三巻の内、現存する上巻について、唯一の伝本である観智院旧蔵本(現・天理大学蔵古鈔本)の翻刻・釈文・出典・語釈・大意・他出例・補説を施した、本書の初の注釈書・研究書となります。本書の最大の特徴は、従来の「出典論」を見直し、『文選』李善注の転用、『蒙求』古注の転用など、源為憲による『世俗諺文』の具体的な編纂過程を明らかにした点にあります。

  • 平安朝日本漢文学の基底

    濱田寛 武蔵野書院 (2006年9月)

    平安時代の大学寮で行われた中国古典に関する膨大なインプットを要請する学問は、卒業後には「詠詩」「作文」というアウトプットに実践的に結実します。この「表現」という営為を支えた「規範」の実態を探求したのが本書です。第一章は「省試詩」、第二章は「対句説」と「詩病説」、第三章は「対策文」を対象としています。第四章は天皇の諮問に応えた諸道博士の「勘文」の言説を分析し、第五章では円仁『入唐求法巡礼行記』を対象とし、「規範」の観点からの本文の新たな知見を示しました。
     本書は2001年に早稲田大学に提出した学位請求論文を刊行したものです。

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