阿部能久 教授阿部能久 教授

プロフィール

聖学院大学人文学部教授。慶應義塾大学文学部卒業。慶應義塾大学大学院修士課程文学研究科修了。筑波大学大学院博士課程歴史・人類学研究科単位取得退学。博士(文学)。筑波大学大学院助手、大田原市那須与一伝承館学芸員、鎌倉国宝館学芸員等を経て、2019年に聖学院大学人文学部准教授、2022年より現職。

  • 専門分野

    日本中世史

  • 研究テーマ

    室町幕府将軍足利氏の支族である関東公方足利氏の歴史、室町後期から江戸時代初期にかけての関東の政治や社会、宗教について

  • 講演可能なテーマ・ジャンル

    • 関東公方足利氏の歴史
    • 戦国時代の関東
    • 中世の鎌倉

取り組んでいる研究について詳しく教えてください。

室町時代後期に関東で影響力を持っていた関東公方足利氏について研究を行っています。関東公方は室町幕府が東国を統治するために置いた地位で、室町幕府将軍家と同じ足利氏が世襲してきました。戦国時代には弱体化したと考えられてきましたが、1980年代以降の研究で、実は豊臣秀吉や徳川家康も一目置くほどの求心力を江戸時代初期に至るまで持ち続けていたことが明らかになっています。

従来、光の当たることが少なかった関東の歴史研究が進んだ背景には、昭和の終わりから平成にかけて、先輩の研究者や各地の自治体によって古文書や古記録が解読され、史料集や自治体史などの形で活字化されたことが挙げられます。その取り組みのおかげで、私たち後進の研究者はだいたいの当たりをつけて効率的に史料を探せるようになりました。

けれども、研究の核が原本と向き合うことにあるのは変わりません。研究対象の人物たちの間で実際に交わされた書状などを見る時の感動は、研究最大の醍醐味でもあります。例えば武将自筆の命令書。活字で見ても文字に書かれている内容が読み取れるだけですが、原本となれば話は別です。小さく折り畳まれた跡を見れば厳しい戦況の中で敵の目を盗んで受け渡ししたであろう様子が伝わってきますし、どのような紙を使っているか、どのように花押(署名)を書いているかなど、文字以外の部分からも豊かな時代の息吹を感じることができるからです。

歴史を研究することで、私たちの中にはどのような力が養われると思いますか?

歴史研究の面白さは、多くの人が当たり前だと思っている定説やステレオタイプなイメージとは異なる、新たな側面を掘り起こすことにあると思います。

例えば、戦国武将といえば、既存の体制や価値観を打ち砕く“下剋上”のイメージがありませんか?戦国大名北条氏の初代である北条早雲はその典型で、かつてはどんな出自かもよくわからず、伊勢の素浪人からのし上がったと言われていました。けれども、近年の研究により、早雲は室町幕府の役人として関東に赴き、幕府の枠組みの中で築いた人脈によって勢力を伸ばしたことが明らかになっています。彼は、古い体制を打倒したというより、その権威を巧みに利用した人物なのです。

歴史には、時を経る中で少しずつバイアスがかかるものです。江戸幕府がまとめた記録では、幕府が伝えたい家康像に合った事実のみが強調されましたし、戦後、唯物史観が流行った時は武士や民衆の“下剋上”的な面が実際以上にもてはやされました。人間は、今、自分たちが見たいものを見るために過去を解釈しがちです。だからこそ、時代が進むごとに歴史の読み直しが必要なのです。

物事の一面的な“定説”以外の部分を、史料という裏付けに基づいて掘り起こす。歴史研究者のそんなものの見方は、情報があふれる現代にこそ求められるものだと思っています。

著 書

  • 戦国期関東公方の研究

    阿部能久 思文閣出版 (2006年)

    戦国期から江戸初期にかけての関東公方権力が東国の政治状況にいかなる影響を与えていたのかについて、公方発給文書の分析や、寺社勢力との関係への検討を通して、解明を試みる。特に先行研究では等閑視されていた近世初頭における関東公方足利家とその後裔である喜連川家の存在形態も視野に入れることによって、当該期にあっても関東公方権力が、東国の政治状況を強く規定し続けていたことを明らかにした。

  • 那須与一伝承の誕生―歴史と伝説をめぐる相剋―

    共著 ミネルヴァ書房 (2012年)

    『平家物語』中の活躍で知られる那須与一と、彼を生み出した那須氏の歴史について、良質な史料をもとに通説を再検討し、那須与一の伝承が流布した背景に迫る。特に近世における那須氏再興の背景にある、豊臣政権や江戸幕府との関係と、再興の過程で新たに作り出された与一伝承について取り上げた。

  • 関東戦国全史 関東から始まった戦国150年戦争

    共著 洋泉社 (2018年)

    享徳3年(1454)の享徳の乱勃発から慶長5年(1600)の関ヶ原の戦いまでの、150年におよぶ関東の政治状況を詳述する。その中で関東公方足利氏と関東管領上杉氏の動向を中心とする戦国前期の状況について述べた、第Ⅰ部「足利氏と上杉氏の時代」1~4章、第Ⅱ部「台頭する北条氏と足利・上杉との角逐」1章を担当した。

関連するSDGsのゴール

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