佐藤千瀬 准教授佐藤千瀬 准教授

プロフィール

東京学芸大学教育学部幼稚園教員養成課程卒業。東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科学校教育専攻(博士後期課程)修了。博士(教育学)。聖学院大学人間福祉学部児童学科特任講師、専任講師を経て、2018年4月から現職。これまでに、外国につながる子どもの保護者への支援(保育の翻訳資料の作成)、幼児のための異文化間教育の教材監修(ベネッセ「こどもちゃれんじじゃんぷ(5・6歳児用教材)」の「せかいのともだち」監修)、保育者への研修、保育分野におけるリカレント教育プログラム・教材(異文化間教育)の作成などを行ってきた。趣味は旅行、フルート・ピアノの演奏。

  • 専門分野

    異文化間教育、幼児教育

  • 研究テーマ

    乳幼児がどのようにお互いの差異に気付き差異を意味付けていくか、幼児独自の偏見(前偏見)はどのように生成されるか、どうすれば前偏見を低減できるのか

  • 講演可能なテーマ・ジャンル

    • 幼児の偏見(前偏見)
    • グローバル化する幼児教育の現場
    • 乳幼児期からの異文化間教育
    • 多文化保育・教育(保育者・教師のための異文化間教育)

取り組んでいる研究について詳しく教えてください。

「異文化間教育」は、外国につながる子どもや、国際結婚家庭の子どもなど、複数の文化の狭間で成長する人を対象にした学問。周囲との関係性を通してその人間形成や発達を把握し、どう支援すべきかを考えていく分野です。その中で私は、乳幼児がどのようにお互いの差異に気付き、それを意味付けていくのか、また、幼児独自の偏見(前偏見)がどのようにして生まれるのかをテーマに研究を行っています。幼稚園のクラスに入らせていただいて子どもたちのやりとりを観察したり、子どもや保護者・保育者に聞き取りを行ったりして調査を進めることが多いですね。

2~3歳の幼児は、直接的な関わりを通して、お互いの外見や話す言葉の違いに気付きます。最初は中立的に、違いは違いとしか捉えません。けれども3~5歳ぐらいになると、褐色の肌を「お風呂に入ってないんじゃないか」と疑ったり、食文化の違いから手でお弁当を食べている子を見て「あの子、きたなーい」と言ったり、ネガティブな反応をする子が出てきます。その反応は、相手の子どもがクラスの中でどんな存在であるかによって変わるようです。そのため私は、保育者が “違い”のある子どもをどのようにクラスの子どもたちに紹介し、援助するのか、最初の対応が重要だと考えています。

例えば「日本語が分からないから教えてあげてね」と紹介すると、子どもたちは“違い”のある子どもを自分たちより下の存在と受け取ります。ですが「日本語は分からないけど、○○語は分かるんだって」と紹介すると状況は変わります。少しの言い方の違いですが、“違い”のある子どもが異文化とのつながりを隠したり弱めたりすることなく、のびのびと育つためには、保育の現場も異文化間教育を意識した環境へ変化する必要があると思います。

日本の「異文化間教育」は、今、どのような段階にあると思いますか?

私がこの分野に興味を持ったのは、学生時代、米国の幼稚園と小学校で1カ月間ボランティアを行ったことがきっかけです。シリコンバレーであったこともあり、クラスには多彩な背景を持つ子どもがいました。好きなものを発表する「show & tell」の時間には、台湾の絵本やインドの食べ物など、各国の文化につながるものが次々に登場します。世界にはさまざまな言葉や暮らし方があり、家族にもいろいろなかたちがあることを、子どもたちはクラスメイトを通じて肌で学び、自然と尊重し合っている姿が見られました。私を感動させた当時のアメリカの保育・教育に比べると、日本の現状はまだ道半ばと言わざるをえません。

日本の保育・教育はまだ文化の狭間で成長する子どもの援助・支援にまで十分に至っておらず、その前段階である多文化を意識した教員養成がようやく始まったというところです。私も、子ども教育学科で異文化間教育を教える傍ら、既に現場に出ている教員や保育者に向けたリカレント教育のプログラムを他の先生方と一緒に作成しました。

複数の文化の狭間で成長する子どもはこれからも増えていくでしょう。本人にとって、また、まわりの子どもや大人にとっていちばん豊かな支援や教育のかたちを、研究を通して探っていけたらと思っています。

著 書

  • 多文化社会の偏見・差別 ―形成のメカニズムと低減のための教育―

    共著 第2章「幼児の前偏見の生成と低減の可能性」 明石書店 (2012年4月)

    本書では、日本の幼稚園で日本人幼児と外国人幼児の前偏見(幼児独自の偏見)がどのように生成/形成されるのか、また、どのように低減される可能性があるのかを、事例を通して明らかにした。日本国内の公立幼稚園における参与観察の結果、保育者の役割として①直接体験の仕かけづくり、②多様なカテゴリーの流動化の仕かけづくり、③集団のリーダー的存在の子への働きかけの重要性が浮かび上がった。

  • 多文化保育・教育論

    共著 第3章「外国につながる子どもの保育・教育と保護者への支援」
    第1節「言葉に関する事例:保育」 みらい (2014年4月)

    本書では、多文化保育のなかでも言葉に焦点を当て、①日本語がわからない外国につながる子どもへの入園初期の保育の留意点②母語を活かした保育③日本語を話す外国につながる子どもの保育の留意点④外国につながる子どもと保護者の母語の重要性について事例を通して述べた。

  • 異文化間教育学体系 3 異文化間教育のとらえ直し

    共著 第5章「異文化間の人間関係」 明石書店 (2016年6月)

    本論は、心理的視点から各発達段階において研究されてきた異文化間の人間関係に関する領域の研究を整理し、人間関係の変容と異文化間トレランスを生涯発達的視点から捉えた。

  • 特別支援教育への扉

    共著 第3部:第2章「帰国児童生徒、在日外国人児童生徒の教育」 第3節「外国人児童生徒教育の現状と課題」
    第4節「学校における国際理解教育の現状と課題」 八千代出版 (2004年9月)

    本書では、学校教育段階における外国人児童生徒教育の「日本語支援」と「適応支援」の現状及び問題点、特別支援教育の視点からみた課題(カリキュラムの必要性、教師の役割)についてまとめた。また、現在の「国際理解」の取り組みにおける問題点を指摘し、今後の課題(国際理解教育の授業と科学的な知識の学習、教師の役割、教室のコミュニケーションの重視、学校のあり方)について述べた。

論 文

  • 幼児の外国人幼児への差異の気付きと前偏見の形成過程
    ―前偏見の低減に向けて― (博士論文)

    東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科 1-332(2005年12月)

    本研究は、日本人幼児と外国人幼児がお互いの差異に気付き、その差異を意味付け、幼児の偏見(前偏見)を形成していくプロセスとメカニズムを明らかした。その上で、これまで当たり前のように行われていた保育者の実践と幼稚園教育の課題を明らかにし、外国人幼児への前偏見低減に向けた幼稚園教育の方向性を提言した。研究方法は、日本の3 つの幼稚園での参与観察、保育者と外国人保護者へのインタビュー調査を行った。

  • 「外国人」の生成と位置付けのプロセス -A 幼稚園での参与観察を事例として

    『異文化間教育』 (21号) 73-88 異文化間教育学会 (2005年4月)

    小論では、3歳児と4歳児が、幼稚園において外国人園児の個々の差異を認識し、その差異をもとに「外国人」として位置付けていくプロセスを、外国人園児の置かれた日常的な学級集団のコンテクストとの関連で明らかにした。さらに、外国人園児が底辺に位置付けられていく、プロセスとその問題性が明らかになった。研究方法は、日本の私立幼稚園の 3・4 歳児クラスの外国人園児、日本人園児、保育者を対象に参与観察を行った。

関連するSDGsのゴール

★学校法人聖学院はグローバル・コンパクトに署名・加入し、SDGsを目指した活動を行っています。