長嶋佐央里 准教授長嶋佐央里 准教授

プロフィール

聖学院大学政治経済学部准教授。関西学院大学大学院 経済学研究科経済学専攻 博士課程後期課程 単位取得退学。博士(経済学)。沖縄国際大学 経済学部経済学科 講師を経て現職。

  • 専門分野

    財政学、地方財政、税制、社会保障

  • 研究テーマ

    • 社会保障分野における国と地方の財政関係に関する研究
    • ジェンダー・エクイティに配慮した税制・社会保障制度の構築に関する考察
  • 講演可能なテーマ・ジャンル

    • 国と地方の政府間財政関係
    • 地方交付税制度
    • 地方自治体の財政運営
    • 社会保障分野の財政

取り組んでいる研究について詳しく教えてください。

財政とは、政府の経済活動のこと。国や地方自治体は、国防、警察・消防、道路整備、義務教育、年金、社会福祉などの公共サービスを提供し、私たち国民・住民は税を負担して、必要な財源をまかなっています。そういった国と地方自治体の活動を、支出と収入からとらえるのが財政学という学問です。

国や地方自治体はまず予算を組みます。予算を議会で通さなければ何も始まりません。どういったサービスが必要なのか、そこにどのような財源を充てるのか。財源の主軸が税金であることはもちろんですが、“借金”という手段もありますし、細かく言えば使用料・手数料なども入ります。

私は地方財政をメインに研究しているのですが、その在り方は千差万別です。住民や企業を多く抱える東京都などは財源が豊かですが、自治体によっては税収が十分でなく、国から交付される地方交付税が重要な財源であることも。いずれにしても、自治体は、福祉重視や公共事業重視など、地域のニーズを見ながら優先順位をつけてやりくりしています。  日本のどこにいても標準的な公共サービスが受けられるというのが建前ですが、実情は、都市部で提供されているプラスアルファのサービスを、山間部の町村で提供するのは難しい。そういった格差も大きな課題です。

税制や社会保障制度は、今後どのような方向を目指していくべきだと思いますか?

最近になって始めた研究に、税制や社会保障制度におけるジェンダー・エクイティ、ジェンダーの公平性というテーマがあります。日本の制度は、女性が子育てを担うのが当たり前だった頃にできたもので、近年の生き方や暮らし方に見合わなくなってきています。家族の扶養に入って働く人が、所得税の支払い義務が発生するのを避けるために働く時間を短くして年収を抑えようとする「103万円の壁」問題もその一例です。

所得税制度は戦前の世帯単位から戦後に個人単位となりましたが、社会保障制度の方は介護などもともと家族の中で行っていた役割に代わる機能としていることもあり、今も家族単位になっています。こちらも制度が現代の生き方に合わなくなってきているのではないかというのが私の考えです。独身者や、パートナーが亡くなった後の高齢独居者が増えていることもあり、事実婚、同性婚、パートナーシップなど、多様な家族のかたちを反映した制度をつくるにはどうしたらいいか。今は、憲法や家族法の専門家と共同で研究を進めているところです。

私の研究分野で面白いのは、理論や理想ではなく、あくまでも現実が分析や議論の対象になるところ。どんなに小さな一石でも、投じ続ければ、暮らしを良くするささやかな変化につながるかもしれない。そう思って日々の研究に取り組んでいます。

論 文

  • 日本の市町村における児童福祉費の扶助費の動向分析

    経済環境研究 8 1 ~ 17 (2019年3月)

    国の子育ての施策や地方財政計画における一般財源総額実質同水準が続くことによる市町村の児童福祉費の扶助費への影響を分析した。その結果、財政力が強い団体では、市町村独自、都道府県の補助事業を含め、多くの単独事業が実施されている一方で、財政力が弱い団体では、国の補助事業の実施が困難であることを示し、標準的なサービスを確実に実施するためには、地方財政計画での一般財源の確保が重要であることを示唆した。

  • 社会保障分野における国と地方の財政関係に関する分析

    経済環境研究 7 61 ~ 75 (2018年3月)

    地方自治体による社会保障制度の展開とそれに伴う国と地方の財政関係について、マクロの視点から、地方財政計画と地方の決算の分析を行った。その結果、三位一体の改革、社会保障・税の一体改革により、自主財源である地方税が拡充されたが、構造改革による歳出抑制が並行して行われ、地方歳出の伸びや地方交付税総額の伸びが抑制され、一般財源は大きく増額せず、それらの改革の効果は限定的であることを見出した。

  • 個人住民税の非課税限度額に関する考察

    経済学論究 67 4 109 ~ 138 (2014年3月)

    低所得者の税負担軽減措置である個人住民税の非課税限度額制度の意義を考察した。非課税限度額の改正の経緯とその水準の推移を分析し、非課税限度額制度は低所得者層への税制の対処として評価できることを示した。また、所得割の非課税限度額は、課税最低限との関係や簡素な税制という視点から問題があり、課税最低限の存在、給付付き税額控除の導入を含め、制度の恒久化もしくは廃止を検討する必要があること示唆した。

  • 生活保護に対する地方交付税の財源保障
    ―大阪府門真市における交付税単価と実額単価による分析―

    日本地方財政学会研究叢書 19 91 ~ 110 (2012年3月)

    生活保護に対する地方交付税の財源保障について、基準財政需要額の算定に用いられる単価(交付税単価)と実情に基づく単価(実額単価)を比較し、地方財政に及ぼす影響を分析、基準財政需要額の算定が中立的なのか、実態を反映していないのか、考察し、基準財政需要額と実額の乖離が生じているとしても、それをもって算定が不適切である、つまり財源保障が適正でないということはできないことを示した。

関連するSDGsのゴール

★学校法人聖学院はグローバル・コンパクトに署名・加入し、SDGsを目指した活動を行っています。