継続は力なり。久保田翠 准教授継続は力なり。久保田翠 准教授

Midori Kubota

久保田 翠准教授

プロフィール

東京藝術大学音楽学部作曲科卒業。東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了、同大学院博士課程単位取得満期退学。和洋女子大学・青山学院大学大学院非常勤講師、神戸女学院大学専任講師を経て2017年4月より現職。作曲家としてこれまで多くの作品が委嘱・演奏されている。またパフォーマーとしても積極的に活動しており、「実験音楽とシアターのためのアンサンブル」メンバーとして2017年にはヨーロッパツアーに参加。

  • 専門分野

    作曲、アメリカ実験音楽

  • 研究テーマ

    図形楽譜などの特殊な記譜と演奏行為との関係性に関する考察、及びその実践

  • 講演可能なテーマ・ジャンル

    • アメリカ実験音楽、アメリカ黒人音楽、図形楽譜を使ったワークショップ
    • クラシック音楽やポピュラー音楽などジャンル横断的な考察(音楽様式、メディアとの関係など)

取り組んでいる研究について
詳しく教えてください。

「アメリカ実験音楽」と「作曲」を主な研究領域としています。

「アメリカ実験音楽」は、第2次世界大戦後~1960年代頃にアメリカの作曲家たちの間で発生した音楽の潮流です。「演奏しない音楽」であるジョン・ケージの《4分33秒》をはじめ、偶然性や不確定性など、ヨーロッパの現代音楽とは異なる美学に基づいた多くの作品が生み出されました。中でも私は、クリスチャン・ウォルフの図形楽譜を中心に扱っています。彼が楽譜の中で用いる、自ら考案した様々な記号は、それ自体の読解手順を演奏者に準備するよう要求します。演奏をどこから始め、どこで終えるのか、どんな順番で演奏するのか、その全ては演奏者の意志に委ねられるのです。図形楽譜から生まれるのは、各演奏者が統率者(指揮者)ではなく、自分の周囲の演奏を感じ取りながら自発的に奏でる音楽です。こうした特別な記譜が、演奏者の身体とどのように結びつくか、というところに関心があります。ウォルフに関する日本語文献は、現在ほとんど存在しないため、彼の作品史をはじめ、作品の背景にある生い立ちや文化的な要因を整理するとともに、その図形楽譜に合う演奏方法や、作品を演奏する歴史的意義を、他の作曲家の先行研究などと対比しながら研究しています。

「作曲」においては、五線譜を使って作曲することもあれば、文章によるインストラクション(指示)だけを使った作品を作ることもあります。前者の場合は「音楽作品」、後者の場合は「パフォーマンス作品」を作る、と言っていいかもしれません。特に、実験音楽をベースとする、読譜と演奏との関係性の新たな構築の仕方に興味を持って取り組んでいて、完成した作品は実際に演奏も行います。

文献の精読や執筆からなる「研究」と、実践的な「作曲」という2つの行為は、私にとって完全に切り離せるものではなく、それぞれを深めていくほどに、もう一方との結びつきを強く実感します。最終的には作曲家として、ウォルフの研究を通して得た新たな知見や視野を自分の作品に反映したいですね。

作曲者の視点から、現代社会における音楽の受け取られ方をどのように捉えていますか?

ここ数十年で、音楽をめぐるメディアの在り方は非常に激しく変化しています。ほんの30年前、好きな曲の音源を手に入れる手段はほぼCDショップに限られていました。それが、特に配信サービスが発達してからは、音楽は「欲しい」と思った瞬間にその場でダウンロードできますし、一生かかっても聴ききれないほど膨大な量の音楽にいつでも触れられます。時代とともに、一曲に対する態度は変容してきていると感じますね。

今、学生たちに好きな曲を紹介してもらうと、デビュー間もない若い歌手や、インディーズバンドの曲が続々と挙げられます。何でそれを知ったのか尋ねると、よく返ってくるのは「SNSで見つけました」という答え。かつて、特にインディーズバンドは、ごく少数の音楽マニアが自分の好みを深く掘り下げて見つけるもの、というような位置付けだったと思いますが、今はたとえ音楽にそれほど詳しくなかったとしても、SNSなどで偶然耳にした音楽を「いいな」と思えば、アーティストの知名度に関わらず「好きな曲」のひとつになります。

作り手として、自分の音楽を聴いてくれる人を増やすためのアプローチの仕方を考える上でも、若い人とSNSの繋がりはとても意識します。発信のしやすさを大きなメリットに感じますが、今の若者の音楽に対する消費の傾向は、普段網羅的にCDを買わなくても、好きなアイドルのライブのためにはお金を貯めて、地方まで足を伸ばしたりするなど、「特別好きなものには出費を惜しまない」というもの。とてもメリハリのあるお金の使い方をしているんですね。そんな学生たちの姿を見ていて、作曲者として「そこまで強く心を惹きつけるものを、どれほど自分は作れるのだろうか」と、身の引き締まる思いがします。

著 書

  • こどもたちへ メッセージ2019①
    世界の街⾓編:28⼈の作曲家によるピアノ⼩品集

    一般社団法人日本作曲家協議会(編) カワイ出版 (2019年) 26-29

    子どものために作曲されたピアノソロ曲『ニューヨークの地下鉄でジャズを聴きながら』が所収されている。NYの地下鉄で聴いたジャズ演奏を思い浮かべながら、「子どもでも弾けるジャズ」を目指して作曲された。

論 文

  • ケージから離れて―クリスチャン・ウォルフと間隙の作法

    表象(8)190-208 (2014年4月)

    アメリカの作曲家クリスチャン・ウォルフ(1934-)が、その唯一の師となるジョン・ケージ(1912-1992)と出会い、どのようにして作曲を「学習」していったかを、ウォルフ自身のインタビューや文献を元に辿った。また初期の五線譜の作品から1958年末に導入される図形楽譜へと至る過程を追い、ケージの影響を次第に離れて自身の独自の方法を編み出して行く過程を検証した。

その他

  • CD
    アネノネ―祈りのうた―

    COO-Records(株式会社マーキュリー)

    女声コーラスアンサンブル「コロスタシアannex」のファースト・アルバム。『星の界』『白の風景〜亡き王女のためのパヴァーヌによる〜』『Amazing Grace』のアレンジを担当。また、作曲を手がけた『アネックスのテーマ』が収録されている。

関連するSDGsのゴール

★学校法人聖学院はグローバル・コンパクトに署名・加入し、SDGsを目指した活動を行っています。