聖学院大学政治経済学部政治経済学科長。早稲田大学法学部卒、同大学院法学研究科博士後期課程満期退学。修士(法学)。聖学院大学専任講師、准教授を経て、2015年4月から現職。早稲田大学比較法研究所招聘研究員、中央大学日本比較法研究所嘱託研究員、全国憲法研究会機関誌『憲法問題』編集委員長。上尾市人権施策推進協議会委員、同男女共同参画社会審議会会長職務代理。
専門分野
憲法学、フランス法学
研究テーマ
憲法理論における中間団体の位置づけ、刑事手続における人権保障、監視社会論、現代警察理論・治安法制、フランス法史、フランスにおける女性の権利・生命倫理法制など
講演可能なテーマ・ジャンル
取り組んでいる研究について
詳しく教えてください。
世の中で日々起きているさまざまな事件や法的問題の解決にあたり、日本国憲法と各種法令の条文、そして司法が過去に下した判決を踏まえ、いかに妥当な解釈を導き、適用させるかについて考えるのが憲法学です。その中でも今私が関心を持っているテーマとしては、現代社会における中間団体(憲法学上国家と個人の中間に位置づけられる、家族、地域共同体、企業、政党、職能集団、宗教団体、非営利組織などのさまざまな集団を総称する概念)をめぐる諸問題、監視社会論、現代国家における警察のあり方および刑事手続における人権保障、女性の権利などです。
他にも、近代立憲主義の祖国の一つといえるフランスの憲法の歴史と現状、「胎児は『自律した個人』なのか」といった近代憲法が想定した「自律した・理性的な個人」という概念に対する問いかけ、歴史的に模範的な「国民」の枠の外に追いやられてきたマイノリティ(障害者、LGBT、ホームレス、ハンセン者、少数民族、外国人など)の権利擁護のあり方などにも関心があります。
研究成果は、講義を通じて学生たちに伝えると同時に、専門家の知見としてメディアを介して発信し、同じ問題意識を持つ他分野の専門家、ジャーナリスト、政治家の方々との意見交換を通じて社会にフィードバックするよう心がけています。
身近には感じにくい「憲法」を、
私たちはどう捉えていくべきでしょうか?
憲法は、犯罪となる行為とそれに対する刑罰を定めた刑法や、日常生活に直接関わる規範を定めた民法のように、私たち市民を縛るルールではなく、国家権力の暴走を防ぎ、適切に制御するためのルールです。そのため、一般市民が憲法を身近に感じにくいのは当然だと思います。そして、これはある意味、(とりあえず表面的には)今の日本では権力が暴走しておらず、一応はコントロールされているということかもしれません。
しかし、だからといって、私たちが憲法に無関心でいてよいということにはなりません。最近のニュースを例に出すと、大手自動車メーカー会長の逮捕をきっかけに、日本の司法制度による被告人の長期勾留が「人質司法」と世界的に批判を受けています。憲法では黙秘権が認められ、拷問は絶対的に禁止されていますが、実際は容疑を認めなければずっと保釈されないこと、家族となかなか面会もできないこと、弁護人の立ち会いを認めない精神的に過酷な取り調べが自白の強要につながり、冤罪の温床になっていることといった問題が指摘されています。このままそういった状況が放置されれば、誰にでもその火の粉が降りかかる可能性があるのです。
もうひとつ知っておいてほしいのは、憲法は障害者、外国人、あるいは性的マイノリティといった「少数者」とされる方々の権利をも尊重しているということです。今挙げたもののどれにも自分自身が当てはまらなければ、それは関係ないような気がしてしまうかもしれません。しかし、人間は誰しも、切り口を変えれば少数者になりえます。多様な人々が共存しながら成り立つこの社会に、最低限必要なルールや国家権力とはどのようなものなのか。それは「普通の」市民であっても、想像力を働かせながら考えるべきではないでしょうか。
私たちの自由と生命を守るためにも国家権力は必要ですが、それによって侵害されるかもしれない個人の権利や自由との折り合いをどこでつけるのか、きちんと考え、国家権力が暴走しないように監視するのは私たち国民の役目だと言えます。その時の手がかりになるのが、憲法なのです。学生をはじめ、多くの方に少しでも憲法を身近に感じてもらえるように、これからも工夫を重ねていきたいと思います。
著 書
国会を、取り戻そう!
議会制民主主義の明日のために(共著)
石川裕一郎・石埼学・清末愛砂・志田陽子・永山茂樹(編著) 現代人文社 (2018年7月)
主として2012年に成立した安倍晋三政権下で成立した安保法を始めとする様々な法律そのものの「中身」ではなく、その制定過程の「手続」で生じた諸問題に着目し、一般向けに平易に解説。そのうち、「直接民主制と間接民主制:私たちの世界をつくる」、「選挙制度:望ましい選挙制度とは何か」、「メディアと政治報道:マスコミの役割」、「選挙制度:「一票の較差」を正すには」の執筆を担当。
それって本当?
メディアで見聞きする改憲の論理Q&A(共著)
改憲をめぐる言説を読み解く研究者の会(編著) かもがわ出版 (2016年12月)
テレビ、ネット等のメディアで流布する「改憲が必要な理由」を46の問いにまとめ、メディアで流される改憲論理について言語学者と憲法学者7人で検証。執筆者は、石川裕一郎・稲正樹・神田靖子・木部尚志・中村安菜・名嶋義直・野呂香代子。
これでいいのか!
日本の民主主義 失言・名言から読み解く憲法(共著)
榎澤幸広・奥田喜道・飯島滋明(編著) 現代人文社 (2016年5月)
近年の政治家の失言・暴言の意図を読み解きつつ、対照的に未来に希望を与える発言も取り上げて、憲法と日本の政治を考える。そのうち、第1部第3章「だって戦争に行きたくないじゃん」という自己中心、極端な利己的考え」および第2部第1章「これまで政治的無関心と言われてきた若い世代が動き始めている」の執筆、第3部「安保関連法に反対するママの会・西郷南海子さんに聞く」、「SEALDs・髙野千春さん本間信和さんに聞く」のインタビュー等を担当。
現代フランス社会を知るための62章[エリア・スタディーズ84](共著)
三浦信孝・西山教行(編著) 明石書店 (2010年11月)
現代フランスを理解するためのキーワードを62選び、解説。そのうち、「第9章・結社(非営利団体):共和国の「敵」から「パートナー」へ」、「第13章・年金:「豊かな老後」のゆくえ」、「第14章・社会保障:揺らぐ「自律」、変容する「連帯」」、「第32章・租税:「消費税の母国」は今」、「第39章・憲法:「大統領制と議院内閣制のはざまで」、「第48章・国防:「国民の軍隊」のゆくえ」の執筆を担当。
リアル憲法学(共著)
石埼学・笹沼弘志・押久保倫夫(編著) 法律文化社 (2009年4月)
初学者を対象とした憲法学の入門書。従来の類書と異なり、法解釈だけではなく事実の概要の記述にも力点を置いた。そのうち、「第11章・「被告人は無罪」。「何で」?!:被疑者・被告人の権利」、「第17章・皇族に人権はあるのか?:天皇制」の執筆を担当。
Le nouveau défi de la Constitution Japonaise :
Les théories et pratiques pour le nouveau siècle.(共著)
préface de Robert HERTZOG L.G.D.J. (2004年2月)
第3回日仏公法セミナー(於:ロベール・シューマン(ストラスブール第Ⅲ)大学、フランス。1999年12月)における報告原稿の集成。そのうち、“ La genèse de la police au Japon (1868-1880) : ou l’appropriation du modèle français par un État non-occidental ”を執筆。明治初期の日本へのフランス型の警察制度の導入の経緯を題材に、日本における立憲主義と近代化の原初的特殊性について分析(フランス語)。
フランスの憲法判例(共著)
フランス憲法判例研究会(編)辻村みよ子(編集代表) 信山社 (2002年10月)
フランスの憲法裁判所たる憲法院の重要判例を67選び、その判旨の解説と日本法への示唆等を記す。そのうち、第3章「人権各論」中の「無罪の推定・刑罰の一身専属性・犯罪の主観的要素:交通安全法判決」の執筆を担当。
フランス法律用語辞典(共訳)
中村紘一・新倉修・今関源成(監訳)Termes juridiques研究会(訳) 三省堂 (1996年4月)
Raymond GUILLIEN et Jean VINCENT éd., Lexique de termes juridiques, 9e éd., Paris, Dalloz, 1993の完訳書。現代フランス法律用語を網羅する約4000項目を収録。そのうち、主に公法(憲法、行政法、財政法)・法一般用語の諸項目の翻訳を担当(原文フランス語)。
論 文
市民的自由と警察の現在:「スノーデン・ショック後」の監視社会と国家
法学セミナー(742)48-52 (2016年10月)
近時の日本における市民的自由と警察の関係を囲繞する諸問題の検討を通して、2010年代の監視社会論およびその視座における国家像の変容を検討。
憲法の忘却/忘却の憲法:「沖縄」「福島」から「アメリカ」「天皇」へ
福音と世界68(10)37-45 (2013年10月)
戦後日本の歩みを「天皇」「アメリカ」という視座から読み解き、沖縄の基地問題と福島の原発事故と関連づけ、そこから自民党改憲案を分析。
コミュニティの安全確保における市民団体の役割:
「中間団体理論」と「主体性理論」から分析される生活安全条例
月刊自治研(529)77-83 (2003年10月)
いわゆる「生活安全条例」の問題点を批判的に検討しつつ、警察・公権力の「下請け機関」としてではなく、市民団体がどのように地域の安全確保に関わることができるかを展望。
障害者の「生まれない」権利?:「ペリュシュ判決」に揺れるフランス社会
法学セミナー(573)72-76 (2002年9月)
医師の出生前診断ミスによって先天性障害を持って出生した子本人の医師に対する損害賠償請求(wrongful life訴訟)をフランスの破毀院が認容したことがフランスの世論・法学界・医学界に与えた影響とその経過を紹介し、その問題点を「人権」と「人間の尊厳」の衝突という観点から検討。
〈自律〉〈主体性〉〈法ユマニスム〉:
アラン・ルノーにおける個人主義の再定位
早稲田法学会誌(49)49-108 (1999年3月)
現代フランスの哲学者、アラン・ルノーの個人主義理論を、主に1968年の五月革命に対する解釈と1980年代の「人権論争」を背景として、その「主体性」理論と「法ユマニスム」に関する所論を中心に検討。
関連するSDGsのゴール
★学校法人聖学院はグローバル・コンパクトに署名・加入し、SDGsを目指した活動を行っています。
RESEARCHERS